ドイツのノーベル賞作家、ギュンター・グラス氏死去
戦後ドイツを代表する作家、ギュンター・グラス氏が4月13日にドイツ北部のリューベ
ックの病院で死去しました。享年87です。
ギュンター・グラス氏は1927年に現在のポーランドのグダニスクに生まれ、第二次世
界大戦後、詩や戯曲の創作活動を始めました。代表作でもある「ブリキの太鼓」で
は、3歳で成長が止まった少年の眼を通してナチス時代を批判し、一躍有名となりまし
た。「ブリキの太鼓」は映画にもなったので知っている人も多いのではないかと思い
ます。
しかし、2006年、ドイツの新聞とのインタビューで、「心の重荷だった」と第二次世
界大戦時、ナチスの軍事組織に所属したことを告白し、大きな波紋を広げました。
そのこととは別にグダニスクを舞台に戦時下の青年の日常を描いた「猫と鼠」などの
作品を発表し、1999年に一連の作品を通して戦争の記憶を呼び起こしたという理由で
ノーベル文学賞を受賞しました。
戦後は左派の思想家としても活動し、これは死すまで一貫して貫き通したギュンタ
ー・グラス氏の姿勢で、戦後の世界的な潮流でもあった左派の思想は、サルトルを始
め、どの国にもみられた現象であり、ドイツにおける左派の支柱の一人としての言説
は多大な影響を与えたとも言えます。
日本でも埴谷雄高氏など戦時中に共産党から転向した人たちが戦後の思想や文学を牽
引してゆき、青年たちの心の支柱となっていました。現在では左派の思想は何かと疎
んじられるようにな時代になってしまいましたが、しかし、トマ・ピケティ氏の著書
『21世紀の資本』がこぞって読まれるように、資本主義の限界というものも浮き彫り
になり、再び左派の思想が脚光を浴びるかもしれず、そのためにはギュンター・グラ
ス氏などの先人たちの作品を読んで、深く思索に耽ることが必要な時代なのかもしれ
ません。